「鉄骨だからシロアリの心配はないと思っていた」──これは住宅購入後に後悔する人からよく聞く言葉です。たしかに、鉄は木と違ってシロアリに食べられることはありません。しかし、それだけで「安心」と考えるのは早計です。
鉄骨住宅であっても、床下や壁の内部には木材が使われています。とくに土台や下地材、断熱材周辺など、構造以外の部分に木が残る以上、そこがシロアリの侵入経路となりうるのです。つまり、鉄骨=無敵ではなく、木造ほどではないにせよ、被害のリスクは現実に存在します。
しかも鉄骨造は構造がしっかりしているぶん、表面に出る異変がわかりにくく、シロアリ被害に気づくのが遅れるケースもあります。住宅の構造に関係なく、「見えないところに木材があるかどうか」を意識すること。それがシロアリ対策の第一歩になります。
どこが狙われる?鉄骨住宅の弱点となる部分
鉄骨住宅だからといって、すべてが鉄でできているわけではありません。実際には、構造体を鉄骨で組んだ上に、床や壁、天井の仕上げ部分には木材や断熱材が使われています。つまり、シロアリの侵入経路や被害箇所が“ゼロ”になるわけではないのです。
特に注意すべきは、床下の木製の土台や大引きと呼ばれる横材です。これらは地面に近い位置にあり、湿気がこもりやすく、シロアリが好む環境になりやすい部分です。もし防蟻処理が不十分だった場合、ここから内部へと被害が広がる恐れがあります。
また、断熱材まわりや配管の貫通部など、気密性の低い部分も狙われやすいポイントです。鉄骨造は柱や梁に隙間ができやすいため、そこに木製の下地材が使われていると、シロアリの侵入を許してしまうケースもあります。さらに、構造上、被害が起きても外から見えづらく、発見が遅れることも問題です。
鉄骨住宅のもう一つの弱点は、「油断しやすいこと」です。木造住宅では当たり前に気を配る点検や防蟻処理も、「鉄だから大丈夫」と見過ごされることが少なくありません。しかし、実際には建物の中に少しでも木材がある限り、リスクは常に存在しています。
つまり、鉄骨住宅は「被害が起きにくい」構造ではあるものの、「起きない」わけではありません。見えない部分にこそ注意を払い、定期的な点検と防蟻対策を習慣にすることが、長く快適に住むための基本です。
被害に気づくのは遅れがち。兆候と確認方法は?
鉄骨住宅でのシロアリ被害は、発見が遅れることが少なくありません。なぜなら、目に見える木部が少なく、構造自体がしっかりしているため、「家が歪む」「床が沈む」といった異変が起きにくいからです。では、どんなサインに注意すればよいのでしょうか。
まず代表的な兆候が「蟻道(ぎどう)」です。これはシロアリが地中から木材に到達するために作る、泥や排泄物でできたトンネル状の通路です。基礎の立ち上がり部分や配管まわりなどに、ひび割れのように細い筋ができていたら要注意です。
次に注目すべきは「羽アリの発生」。春から初夏にかけて、室内や外壁まわりに羽のついたアリが集団で現れる場合、それはシロアリが巣をつくって繁殖しているサインかもしれません。また、畳やフローリングに浮きや沈みが見られる、建具の建て付けが悪くなるといった微細な変化も、内部で木材が食われている兆候の一つです。
加えて、押入れや床下収納の中にカビ臭さがある場合も、湿気がこもってシロアリにとって好条件になっている可能性があります。鉄骨住宅では床下や壁内が見えづらいぶん、このような“におい”も貴重な情報源です。
被害に早く気づくためには、定期的な目視点検と、必要に応じて専門業者による診断を受けることが効果的です。年に1回程度の簡易チェックを習慣化しておけば、万が一の被害にも早期対応が可能になります。
鉄骨住宅ならではの対策方法とは?
シロアリ対策というと、どうしても木造住宅に限った話のように思われがちですが、鉄骨住宅にも鉄骨住宅なりの対策があります。構造が違えばリスクの出方も変わるため、「鉄骨住宅に特化した備え方」を知っておくことが、長く快適に暮らすための鍵となります。
まず前提として、鉄骨住宅で狙われるのは、床下や間仕切り部分にある木材や断熱材です。したがって、防蟻処理を行う際は、構造体の鉄ではなく、これらの木部や隠れた場所を中心に薬剤処理を行う必要があります。特に新築時の施工段階で、基礎コンクリートや土台周辺にしっかりと処理を施しておくことで、初期侵入を防ぐ効果は高まります。
さらに、鉄骨住宅は構造の隙間ができやすく、床下換気や配管まわりの施工精度が重要になります。こうした部分の隙間をしっかり塞ぎ、湿気がこもらないように通気計画を整えることも、被害を防ぐ基本です。また、建物の下に床下点検口を設けておくと、目視や業者点検がしやすくなり、早期発見につながります。
もう一つのポイントは「思い込みを捨てる」ことです。鉄骨だから大丈夫、築浅だから問題ない──そうした先入観が、対策を後回しにさせ、結果的に被害の拡大を招くケースは少なくありません。目に見えない場所こそ、油断が最大の敵です。
鉄骨住宅には鉄骨住宅なりの強みがありますが、その強みにあぐらをかかず、適切な防蟻対策と点検体制を整えることが、建物の寿命を延ばすうえで欠かせない視点です。
▶︎ 鉄骨住宅の性能と構造対策についてはこちらもご覧ください
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被害にあったらどうする?補修と再発防止のポイント
たとえ気をつけていても、シロアリ被害を完全にゼロにすることは難しい面もあります。もし被害に気づいた場合は、慌てて処理だけして終わらせず、「原因の把握」と「再発防止」まで視野に入れた対応が求められます。
まず最初に行うべきは、被害範囲の正確な把握です。被害が床下だけで済んでいるのか、壁内部や梁など構造部まで及んでいるのかによって、対応方針は大きく変わります。構造体が鉄骨であれば、骨組みそのものへの深刻なダメージは避けられるケースが多いですが、放置すると木部からの湿気や腐食が鉄部へ波及するおそれもあります。
補修作業では、被害を受けた木部の交換に加えて、防蟻処理のやり直しが基本です。場合によっては、床材や断熱材を剥がして内部をチェックする必要もあります。見える部分だけの対処で済ませると、再発リスクを抱えたまま生活を続けることになります。
再発防止において重要なのは、そもそもの“入口”を塞ぐこと。配管まわりや基礎の隙間、外壁と地盤の接合部など、小さな侵入経路を見逃さず、封じておくことが効果的です。加えて、雨漏りや水漏れなど、湿気を増やす要因の管理も再発防止には欠かせません。
もう一つ注目すべきなのが、定期点検の仕組みを暮らしの中に組み込むことです。たとえば「年に1回、梅雨前に床下点検を行う」といったルールを設けるだけでも、早期発見の精度は大きく上がります。万が一再発しても、ダメージが小さく済むよう備えておくことが、住宅管理の基本といえるでしょう。
鉄骨住宅だからといって被害が深刻化しないとは限りません。被害の有無にかかわらず、「早めの気づき」と「確実な修復」を意識しておくことが大切です。
「鉄骨だから安心」は卒業。長く住むために備えておくべきこと
鉄骨住宅は確かに強度があり、耐震性にも優れた構造です。しかし、それが「手入れいらず」「放っておいても大丈夫」という意味ではありません。特に床下や壁内に木材を使っている以上、シロアリのリスクはゼロではない。だからこそ、安心のために必要なのは“過信しない姿勢”です。
構造にかかわらず、家は湿気や老朽化に影響を受ける生きた存在です。鉄骨だから安全、木造だから心配──そんな単純な見方を乗り越えて、家の中で何が使われているか、どこに弱点が潜んでいるかを冷静に把握する力が求められます。
定期点検、防蟻処理、住まいの換気。これらを怠らないことこそ、鉄骨住宅を“安心して住み続けられる家”に変える基本です。
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